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JIS盤用VCBの保守と更新 (第27回:CT2次電流トリップ方式とは)

JIS盤とJEM盤の違いについては、第一章の絶縁劣化対策の真相でも盤の構成内容の違いを説明していますが、そこで使われているVCB自体でもいくつかの違いがあります。JEM盤用VCBで使われているトリップ方式はその殆どがVCBのための制御電源を別途用意する電圧トリップ方式であるのに対し、JIS盤用VCBでは、CT2次電流トリップ方式(電流トリップ)といわれ、トリップコイルにCTの2次電流を流し込んでトリップ動作させる方式が大半を占めていることによる違いです。尚、時々トリップコイルに印可する制御電源をVT2次のAC電源のものと勘違いされる方がおられますが、主回路の電圧は、相間短絡等の事故が発生しますと、大きく電圧が低下して、トリップコイルの動作に必要な電圧を維持できないので、トリップコイルに使用する電圧電源は、電圧低下のないDCバッテリー電源か、主回路とCTで構成されたCT2次電流が動作電源となります。JIS盤用VCBで、電圧トリップ動作となる場合は、CTD(コンデンサートリップデバイス)に蓄えられた電荷を動作電源に使った引き外し方式が殆どとなります。

一般的なJIS盤が必要とする保護リレーには、過電流保護や、地絡保護ぐらいであるのに対し、JEM盤では、過電圧保護や、比率作動保護や、周波数保護などの複雑な多種の保護リレーを必要とし、それらは電圧トリップ方式用としてしか用意されていませんので、保護リレーとVCBのためのバッテリー電源を特別に用意するしかなく、結果的に必ず電圧トリップ方式となる訳です。過電流保護や、地絡保護だけなら、CT2次トリップ方式用のものでも用意されていますので、JIS盤では、簡単なCT2次トリップ方式が多用されています。JIS盤用VCBは、電圧トリップ方式以外にCT2次トリップ方式にも対応した基本設計とするしかなく、これが、JIS盤用VCBの製作を難しくしている原因ともなっています。日本国内のJIS盤用VCBを製作するメーカーが僅か4社に絞られてしまった原因の一つなのかもしれません。

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CT2次電流トリップ方式自体を下図で、説明しますと、50/5のCT比で、保護Ryは4A設定の回路で、主回路に、30Aの主電流が流れますと、CT2次回路には、3A流れている状態を示しています。CTの2次側は、常にトリップコイルに接続されていますが、過電流リレーは、その中に常時、閉となる接点を持っており、トリップコイルとは平行して接続された回路となっています。通常時は、トリップコイル自体に抵抗がありますので、CTの電流は、その殆どを抵抗のない過電流リレーの閉の接点を通過する電流回路となり、トリップコイルを通過する電流はごく僅かですので、トリップコイルは動作しません。

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しかし、事故等により300A(750%)の過電流が主回路に流れるという事態が発生しますと、過電流リレーは自身の閉接点に流れる30Aの電流を開く動作をします。従って、CTの2次側の回路は、30Aの全てがトリップコイルを流れる回路となりトリップコイルを動作させることになります。この程度の過電流であれば問題起きにくいのですが、事故条件が厳しく、3000A(75倍)の過電流短絡事故となりますと、計算上、300AのCT2次電流を過電流リレーの接点が遮断することになり、トリップコイルにも300Aが流れるという計算になります。実際には、CTの飽和現象によりここまでの大電流にはなりませんが、接点やトリップコイルが損傷する可能性は高いのです。

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トリップコイルが動作するか否かの境界線は、一応3Aとなっています。あまり小さい電流でも動作するような設計としますと、CTに一時的に大きな電流が流れ込む(例えば、TRの突入電流)と、分岐した電流がトリップコイルに流れ込んで誤動作してVCBをトリップさせるということになります。では、丁度3A以上でしか、トリップしないようにするのかというと、実際は、2~2.6A程度に各社は設定しているようです。理由は、定期検査の際に、リレー試験が実施され、設定電流で、保護リレーが動作すればいいのですが、VCBも同時に遮断動作することが多いので、VCBの動作試験も含めて考えておられる方が多く、VCBが動作しなかった場合に、VCB不良と判断されてしまうので、3Aより、やや低い値でも動作するように設計しているようです。低すぎれば、TRの突入時の誤動作があり、高すぎれば、定期検査の際のVCBの不動作に対する勘違いの抗議への説明が大変ということで、各VCBメーカーは困窮している可能性があり、これもJIS盤用VCBのメーカが少なくなった原因の一つです。

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